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# 海で描く
みんなは「海」にまつわるお話、何か知っているかな? 実はヒトが考えた海の物語ってすごくたくさんあるんだ。神様が登場して、自然の法則や信仰心の大切さを説くような神話や伝説、クジラやタコなどの個性豊かな海のいきものが活躍するおとぎ話や昔ばなし。また北から南まで世界中の海のそばにある伝統的な暮らしを伝える民話や、海底に眠っている宝探しや、無人島でのサバイバルを描いた冒険海洋小説まで。それに物語以外にも、起きてしまった海難を忘れてしまわないように、繰り返さないようにと、後世に残された記録や資料まで、海にはたくさんの物語があるんだよ。
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物語の姿と形
物語の内容もいろいろあれば、その姿や形もいろいろ。たとえば『浦島太郎』や『海坊主』といった昔ばなしや、『宝島』や『海底2万マイル』などの海洋小説は「本」になっているだけではなく、「歌」や「劇」や「映画」という形になったりもしているよね。それらは「商品」や「芸術」という形でみんなの身近にあるけれど、姿や形は、本当は大事なことではないんだ。あまり名も知られていないような小さな島にも、そこで暮らすヒトにとってのささやかな海の物語というのはたくさんある。それに物語は必ずしもヒトの視点から描かれるわけでもない。魚の気持ちになって書かれたものや、船の気持ちになって書かれたもの、海の気持ち、というのもあるんだよ。
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文学の役割
海にまつわる文学というのは、ヒトが海を失わなってしまわないためにとても大切なものなんだ。海は自然そのものであり、地球に存在する生き物として、みんなもその一部だということはわかるよね。だけど、普段の生活ではそんな関係のことは、つい忘れてしまう。忘れてもいいんだ。ただ、その関係を失ってしまってはいけない。
みんなは遠い海から生まれて、今でも海とつながって生きている。その関係を失ってしまうということは、自然から切り離され、ヒトが地球の主として振る舞う疑似的な世界に篭るということなんだ。少なくとも今の時代では、どれだけ科学が進んでも、ヒトは自然の代わりには成れない。水の大循環もなければ、自然の浄化作用もない世界で、どうやって生きる環境を維持していけるのだろう。
文学や物語には、ヒトと海とのつながりを想像させてくれる力がある。時間や場所や気候や生命など、海はいくつもの要素が重なり合ってできている。同じようにヒトの世界もまた、いくつもの要素が重なり合ってできている。大きくて眩しい、よく目立つニュースだけではなく、世界各地の小さな暮らしにも目をむけ、その中にある伝統や知恵といった固有の風土を後世に残す。いま、ここ、ではない別の世界、別の生き方にも目を向け、それらが重なり合って世界全体があるということを想像させる。それが海の文学の大きな大きな役割なんだ。
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参考文献
ル・クレジオ『ラガ 見えない大陸への接近』
内田樹 | 釈徹宗『現代霊性論』
吉村昭『三陸海岸大津波』
福島亮大『百年の批評』