インタビュー
2024.10.20
オポポフレンズvol.14【前編】海藻でニッポンとセカイを結ぶ「kinhiji」による「KAISO」プロジェクトとは

海や海にまつわるものが大好きなオポポのともだち"オポポフレンズ"へのインタビュー企画。今回話を聞いたのは、「海藻」に秘められた“日本の暮らしの知恵”を世界に発信している「kinhiji(きんひじ)」という不思議なユニット名のふたり。前編ではユニット結成のきっかけや、日本の食文化を伝えたい!という想いに至るまでのストーリーを聞いてみました。読めばきっと「海藻度=海藻への興味」が高まること間違いなし!

kinhiji(きんひじ)
フォトグラファーの濱津和貴さんと、語り手の中村桃子さんが2018年に始めたストーリーテリングユニット。日本各地の「食」にまつわる文化や知恵袋を世界に発信する活動のひとつとして、海藻に着目した「KAISO(カイソウ)」プロジェクトを進めている。ちなみに「kinhiji(きんひじ)」という名の由来は”きんぴら”と“ひじき”。日本の山と海にまつわる食べ物から半分ずつ名前をもらっているそう。
kinhiji 公式サイト:https://www.kinhiji.com/
インスタグラム:
kinhiji / @kinhiji_
濱津和貴 / @wakyhama
中村桃子 / @_momoko_nakamura_
「kinhiji」のはじまり
ー「kinhiji(きんひじ)」というユニークなユニット名で日本の食文化を世界に発信する活動をされていますが、どのようなきっかけで始まったのですか?
濱津さん もともと2人とも海外に住んでいたことがあって、共通の友達に紹介してもらったのが最初の出会いでした。私は写真、桃ちゃんは物語を発信するという仕事をしていた中で、それぞれの活動の根っこのところで「日本の文化をちゃんと海外に伝えたい」という似た思いがひとつに重なって『Plant-based Tokyo』という野菜中心のガイドブック作りをきっかけに「kinhiji」の活動が生まれました。
ーいろいろある日本の文化の中で「食」を中心にしようとしたのはなぜ?
濱津さん 偶然ですけど、お互い「食」に関する仕事が多かったんですよ。そこが強みになったのかな。でも「食」だけを伝えるのではなくて、そのまわりの文化や物語を伝えたいよねっていうのがありました。
中村さん 私は海外で大学を卒業してから10年間くらい料理番組のプロデューサーをしていました。それから日本への帰国をきっかけにテレビからは離れて、違うお仕事をしたいなと思ってきて。日本各地でフィールドワークを進める中、ずっと「料理」や「食」を伝えるお仕事をしてきたので、自然と「食」という分野にフォーカスしていたんです。
「海藻」に気づいちゃった
ー濱津さんはフォトグラファーとして、中村さんはテレビ番組を作るプロデューサーとして長く「食」にたずさわってきた経験があったわけですね。
中村さん はい。そして和貴ちゃんが話してくれた通り、知人の紹介で出会って「kinhiji」の活動に向かっていくのですが、その時に何かひとつ「主役になる素材」を探しましょう、と。それをレンズ代わりにして日本各地を見ることができるんじゃないかと考えました。
濱津さん 「食文化」といってもとても広いので、そういうのがあれば活動の「軸」がわかりやすいねって。
中村さん そう。何か物理的にふれられるものがあると、ストーリーテリングがもっと分かりやすくなる。そうやって最終的にたどり着いたのが「海藻」だったんです。世界の国々に比べて日本は海藻との関係がすごく強い島国でありながら、実はあまり知られていない。日本に海藻文化が残っているうちに衣食住との関係を探求してみましょうということになって、ここ2年間ぐらい各地を周りながら取材・撮影をしています。
濱津さん 最初はもっと漠然と「料理」でもいいかなって話してたりもしてたんですよ。例えばラーメンとか(笑)。でも衣食住すべてに関係が深い海藻こそがベストだねって気づいちゃったんです。
中村さん そう、気付いちゃった(笑)。
最先端のうしろにあるタカラモノ
ーいったい海藻のどんなところがそんなに魅力的だったのでしょう?
中村さん まだブームとは言えないかもしれないけれど、海藻は国内外、特に海外からはかなり注目されていると思います。例えばスキンケアや繊維としての可能性、コンポストできるマテリアルとしての開発とか。いろんなところで海藻が最先端の技術として研究されていると知る中で、「おや」と思ったんですよね。
中村さん 海藻は最先端よりもその時間の積み重ね、ご先祖様たちの使い方の中にサステナブルな知恵があるのではないかと。だって今の海藻のあり方は、何千年も実用をかねて研究を重ねてきたようなものだし、その知恵袋に私たちが気付き直すべきものがつまっているはず。世界中で起きている問題に、少しでも日本文化からの知恵袋が貢献できるんじゃないか、そのちょうどいい例が海藻なんじゃないかって思ったんです。さらにそれをしなければいけないのはまさに、今。
濱津さん そう。海藻は日本の生活文化の中で古くから身近に使われてたり、食べられたりしているけれども、そういう昔ながらの関係は今どんどん失われてしまっている状況なんです。
中村さん 食べ方で言えば「きんぴら」も「ひじき」も江戸時代からあって、調理法も味もまったく変わっていないんですよね。それくらい海藻は私たちの日常にあたりまえのようにある一方で、その文化をもっと探求してみましょうという動きはあまりされてこなかったんだと思います。
海藻民俗学
濱津さん 海藻を求めて全国をまわりながら、本屋さんや図書館もリサーチするんですけど、海藻についての本ってびっくりするぐらいないんです。あったとしても図鑑かレシピ本が2冊くらいとか……。ほんとになくて寂しい一方で、だからこそ自分たちの活動に可能性を感じています。
ー海藻から日本文化を探求するっておもしろそうですね。お話を聞いていると「知恵袋」という言葉がとても印象的です。海藻をただ食の素材ではなく、まるで*民俗学のように日本の風土に根付いた文化として探求されている。(*人々の日常生活に根ざした文化を研究する学問のこと)
中村さん おっしゃるように私たちも海藻はある意味で民俗学だと思っています。たとえば交通の便が良くない土地には文化が残るって言いますが、海藻も同じなんですよね。海藻はとても傷みやすいので、運搬にたえられず、ある集落にしか存在しない食べ方や使い方というのがあったり、ネーミングもおもしろくって、隣町同士でぜんぜん違ったりするんです。海藻から見た風土のおもしろさはそういうところにもあるなって。
濱津さん そうだよね。ある町の人は普通に食べるけど、隣の町の人にとっては雑草と同じように扱われていたり(笑)。確かにそういう場所は簡単に行けないところが多いかもしれない。道のりが険しいというか、車で走っていて「この崖、崩れそうだな……」みたいなところを行ったり。でもそのおかげで文化が残ってるんだろうね。
ー後編につづくー
写真提供:濱津和貴
ライター:及川壮也(@soyaoikawa)