インタビュー
2024.10.25
オポポフレンズvol.14【後編】海藻でニッポンとセカイを結ぶ「kinhiji」による「KAISO」プロジェクトとは

海や海にまつわるものが大好きなオポポのともだち"オポポフレンズ"へのインタビュー企画。今回話を聞いたのは、海苔やワカメなど、みんなにとってもごく身近な「海藻」に秘められた“日本の暮らしの知恵”を世界に発信しようと活動している「kinhiji(きんひじ)」という不思議なユニット名のふたり。後編ではふたりが進める「KAISO」プロジェクトや、豊かな海藻を育む「海」について聞きました。

kinhiji(きんひじ)
フォトグラファーの濱津和貴さんと、語り手の中村桃子さんが2018年に始めたストーリーテリングユニット。日本各地の「食」にまつわる文化や知恵袋を世界に発信する活動のひとつとして、海藻に着目した「KAISO(カイソウ)」プロジェクトを進めている。ちなみに「kinhiji(きんひじ)」という名の由来は”きんぴら”と“ひじき”。日本の山と海にまつわる食べ物から半分ずつ名前をもらっているそう。
kinhiji 公式サイト:https://www.kinhiji.com/
インスタグラム:
kinhiji / @kinhiji_
濱津和貴 / @wakyhama
中村桃子 / @_momoko_nakamura_
「KAISO」プロジェクト
ー前編はこちらからー
ー「KAISO」プロジェクトはいつから始まったのですか?
中村さん 2022年ですね。
ー主にウェブサイトやインスタグラムで活動のようすを見ることができますが、インスタグラムの「365日の海藻」は連日、海藻が投稿されていてすごいですよね。でもそもそもなぜあれをやろうと?
濱津さん 簡単に言うと「海藻と友達になるため」です(笑)。プロジェクトを始めるまで2人ともすごく海藻が好き! というほどでもなかったので、やっぱり海藻を主役に発信していくならちゃんと仲良くなりたいなと思って。それでインスタグラムで毎日海藻を投稿する「365日の海藻」という企画を始めました。大変だったけど、毎日1つアップするためにたくさんの海藻を探すプレッシャーがあったおかげで、生活の中の海藻の存在がどんどん大きくなっていって、結果的には正解でした。
中村さん 「365日の海藻」をやっていた間、季節限定の海藻という発見もあったり、とにかく毎日の生活に海藻が目立っていきました。でも和貴ちゃんも言うように、投稿を途切れさせないためにどんどん入手しないといけない(笑)。ワカメとか昆布とか、必要なのは少しの量で良かったのですが、少しずつなんて買えないんですよね。だからもう家中に乾物がすごい増えてしまって、消費できる量と買う量がぜんぜん合わなくて、友達にもらってもらうしかなかったです。
濱津さん はい。私めっちゃ配ってます(笑)。
海藻と命、地球、宇宙
ーこれまでの「KAISO」プロジェクトを通じて、海藻についての見方が変わったな、という変化などはありますか?
中村さん 私は海藻の美学に魅了されるようになりました。それまでは海藻というと、茶色や緑っぽいもの、食事のメインでもないし、ちょっとお惣菜に使われていたり、お味噌汁に入っているくらいで、特に「わあ、美しい!」って思ったことはなかったんです。
中村さん でもリサーチで海に行ったり、顕微鏡で観察したり、苗を育ててるところを見せてもらったりしてるうちに、海藻って実は人間の原点に通じるところがあるのかなって思うようになりました。と言うのは、私は「地層」もすごく好きで、沖縄や静岡の伊豆に行くといろんな地層を見ることができて、涙が出るぐらい時の長さを感じるんですよね。人類の血と汗と涙、動植物の進化や生態系、そういうものが全部、地層にあらわれていて、ある意味、海藻もそうなんですよね。
ー海藻に時の流れを感じる!?
中村さん はい。地層をながめていると、私たちが今ここにいるという事実は、何億年もの時間の過程を経ていることを実感します。戦争や災害など、さまざまな危機や困難を乗り越えて生き残ったご先祖様から私たちが生まれて、それはあたりまえではなく奇跡なのだろうと思わせられるんです。海藻にもどこか似た感覚を覚えます。刻まれた時の流れと命のあり方があって、その同じ世界に私たちが立っていることはとても美しいことだなって。
土壁と海藻の関係
ーウェブサイトの「KAISO」プロジェクトの説明には“衣食住に使われてきたkaiso”という表現がありますが、何かひとつ思い出深いエピソードはありますか?
濱津さん 「壁」かな……。
中村さん そうですね。今でこそ人工的な素材が生活の至るところに含まれていますが、もともとはすべて天然素材から成り立っていたわけですよね。その意味では海藻も食だけではなく衣にも住にも使われていて、たとえば「土壁」はそのわかりやすい例かもしれません。
ー土壁の中に海藻が使われている?
中村さん はい。土壁というのは地域によって使われる自然素材が違ってくるんですけど、私たちが取材させていたいただいた佐官職人さんは、土、砂、藁、そして海藻を使っていました。
濱津さん あと、貝も使ってたね。
中村さん うんうん。土壁は呼吸もできて、いずれ大地に還る。きれいにそぎ落とせば別の家に使うこともできる。そこに大事な材料として海藻が使われていて、さて、それは土をつなぎ止めておくためかな? と思うじゃないですか。
ーはい。そう思いました。
中村さん 実は「乾かすスピードを抑えるため」なんです。海藻のネバネバを想像してみてください。水だけだとすぐ蒸発してしまうんですけど、海藻をまぜると長く湿り気を保つことができるんですね。壁の面積が小さい時はさほど問題にはならないのですが、大きな日本家屋の壁とかだと、はじからはじまで全部いっぺんにやらないとムラができてしまう。土は天候によって乾き具合が異なるので、作業を午後と午前に分けたり、日をまたいでしまったりすると見た目が変わってしまうんです。なので海藻をまぜ込んで作業時間を確保することで、きれいな一面に仕上げることができるんですよ。
片思いのような、海
ーここまでいろんな海藻のおもしろさを知ることができたのですが、そんな海藻が住んでいる「海」についてはどんな印象をお持ちですか?
濱津さん 私は子供の頃の途中から海が近いところで育ったので、海って怖くもありつつ、なくてはならないものっていう感覚があるんですよね。ベース、ルーツ、始まりみたいなものかもしれない。全部、すべて……。
中村さん 「片思いしている恋」みたいな感じが私的にあって。というのは私たちもリサーチや取材で海へ行って入ったりするんですけど、やっぱり「危険」も感じるんです。
濱津さん うん、怖いよね。
中村さん ちょっと波が来ててかわらしくも見えるんですけど、そう思った次の瞬間、怖い状況に置かれる可能性もあるじゃないですか。それは出会う海藻博士さんや海女さんもみなさんおっしゃるんですけど、しっかり気をつけないと命に関わる。なので「海」は知りたいし、そこにある無限大の愛みたいな感情を抱くんですけど、近づけば近づくほど、どれだけ危険なのかもわかる。
濱津さん でも入ってみないと、何があるかわからない。
中村さん 大体いつも私たちは浅いところで遊んでるけれど、ちょっと奥に行くと世界観が変わる。
濱津さん 海って本当に未知だらけだよね。
中村さん そう、未知未知(笑)。そんなに気軽に入れるものじゃないというか、結構、訓練が必要だと思うんですよね。
教えてもらえるありがたさ
ー海藻をアンテナにして各地をまわっていると、いろんな出会いがありそうですよね。
濱津さん 2人ともこのプロジェクトでは出会いが1番大切なことだと思っているので、協力してくれる方々は本当にありがたいです。
中村さん 無理に「教えてください。お願いします」って感じじゃなくてね。熱量のようなものがお互い同じところにないと、あまりうまくいかないのかもしれません。
ーみなさんに個別の感情もあるでしょうし、無理のない距離感を保ちながらのコミュニケーションというのは、簡単ではないと思います。
中村さん そうですね。だからこそ熱心に話してくださる方はとてもありがたくて。最近、海女さんとお話させていただく機会があったのですが、実は海女をしているほとんどの方が70〜80歳代で、もし若い希望者があらわれたとしても、簡単には受け入れられないのだそうです。技術的なことや守らなければいけない地域の風習などもあるのですが、大きな理由はとにかく「危険」だということ。そのときの会話が私にとって痛烈な現実だったんです。
ーちゃんと実態を知りながら、理解していくというのも大事なのですね。海藻を通じて日本の文化を探求し、発信していく「kinhiji」の活動、本当に素敵だと思います。ぜひ今後もがんばって続けてください!
濱津さん その場だけで終わらないでほしいって、海で出会う方たちにもよく言われます。なので私たちとしてもずっと付き合っていくトピックではあるなとは思ってますよ。
中村さん ひとつずつ、一人ひとりの縁を大事にして続けたいです。
ー今日はありがとうございました!
濱津さん、中村さん ありがとうございました!
このインタビューでお聞きした「kinhiji」による「KAISO」プロジェクトは今後、書籍にまとめられる計画とのこと! 濱津さんと中村さんがどんな海藻に出会い、知恵袋を発見し、どう世界に発信していくのか、これからも応援していきたいと思います。
写真提供:濱津和貴
ライター:及川壮也(@soyaoikawa)