モデル授業案
2024.02.14
『いのる』で考える、海と神さまの関係ー日本の歴史文化から見つめる
海に対するイメージは人それぞれですが、日本には昔から海に特別な力や神さまが宿っていることを信じる人たちがいます。自分にとっての海と、誰かにとっての海。それらについて学ぶことで、海へのイメージを広げます。
<本プログラムについて>
中学1~3年生 / 総合的な学習の時間、道徳 / 計2コマ
【海と神さまの関係】
海のイメージは、人によってさまざまです。海に特別なパワーが宿っていることを信じる人々や、海やそれにまつわる場所に神さまの存在を信じる人々がいます。それらは昔から受け継がれてきたものです。海と神さまにはどのような関係があるのか。そのことを知る前に、そもそも日本で神さまがどのように扱われてきたのか、神さまとは一体何なのか、日本の歴史と文化的背景からそれらについて学びます。その上で、五感のえほんシリーズ『いのる』を読み、海と神さまとの関わりに触れます。物語を通して、沖ノ島周辺で暮らす人々の生活と深く根付いた神さまとの関係が読み取れます。そして沖ノ島について調べ学習を行う中で、海で体を清める行為を行うなど、海に特別な力が宿っていることを信じる人々がいることについて学びます。これらを通して、自分が持つ海のイメージと、他者が持つ海のイメージに触れます。そうして海へのイメージを広げることで、海がこれまで以上に大事なものとなり、海への関心や想いが育まれます。
概要
■学年:中学校1年, 2年, 3年
■関連:道徳・総合的な学習の時間
道徳 学習指導要領の「D主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること」のうち、「20自然の崇高さを知り、自然環境を大切にすることの意義を確認し、進んで自然の愛護に努めること」に対応するプログラムである
■目標
<知識及び技能>
日本における神や信仰の歴史について知る
世界遺産である沖ノ島について学ぶ
<思考力,判断力,表現力>
神とは何か、信じることは何かについて考える
<学びに向かう力,人間性>
他者の海に対するイメージを学ぶことで自分のイメージを広げる
■教材について
『いのる』
文:森崎和江 絵:山下菊二 出版社:復刊ドットコム
販売ページ:https://www.fukkan.com/fk/CartSearchDetail?i_no=68324751
あらすじ:沖ノ島周辺に住む人々の、さまざまな「いのり」。絵本の中に出てくる言葉から、神さまと深い関わりを持つ文化が受け継がれていることを感じさせる。そして、漁師として海に出ている父を心配する家族は神さまに祈りを捧げている。無事に帰ってきた父は、感謝の想いを神さまへ伝える。この島では、いのりを大切にしていることがわかる。
■授業考案者の考え
さまざまな日本文化を継承する人が少なくなってきていていることが現状としてある。その中には日本ならではの海にまつわる文化も含まれている。自分の生きている国や場所のルーツを知ることは、自分を取り巻いている環境や考え方についても知る入り口となる。沖ノ島の周りに住む人々にとって海は特別な存在なもの。自分にとっての海と、沖ノ島の周りに住む人々にとっての海は全く違う感覚を持っていることがわかるだろう。どちらがいい悪いでなく、両方の感覚を持った存在がいるということを知ることが、最終的には海や自然を守ろうとする心がけにつながっていくのではないだろうか。今回の授業では子どもたちにそのようなことを考えてもらうことを大きな狙いとしている。
指導内容
1.海と人間、持ちつ持たれつな関係性
ねらい:神さまって何だろう。日本で信じられてきた神さまはどのように変化していったのだろう。海と神さまの関係について知るための事前学習を行おう。
【導入】
○問いかけ
・海の神さまについて学ぶ前に、そもそも神さまって何だろう?
国語辞典によると…「人間よりはるかに強い力を持ち、この世にいろいろな働きをすると考えられているもの」
・神さまに何かをお願いしたことはあるかな?
「どれにしようかな…神さまの言うとおり」「バチが当たるよ」
実は普段の生活の中で無意識的に神さまに関する言葉を使っていることも
まずはこれまでの日本と神さまの関係、そして実は海と神さまにも深い関わりがあることを学ぼう
【展開】
○実は日本の「もと」である「神さま」
・神さまって、どんなイメージ?(白布 天使 ヒゲ 龍 石像)
日本の神さまは、自由な姿 山の神、海の神、カエルの神、石ころの神 色々な所にいる
○時代ごとでは「神さま」をどのようにとらえていたのかな?
ー縄文時代
すべてのものが神さま、神さまをいただき(食べて)生きている
自分でつかまえることで死が身近になり、その分感謝も生まれる
日本の神さまを信じる気持ちは、感謝の気持ちからはじまったとされている
同時に、人間が自然を前にすると人間の力を超えた不思議のパワーを感じる、これも信仰に
→Q:自然を前にして不思議なパワーを感じたことはあるかな?それはいつどこでかな?
姿かたちの見えないものを神さまとして崇めてきた場所は日本だけでなく世界にもあるよ
ー弥生時代
米を作るようになって、農業の神さまを信じるようになった
そうして生まれたお祈りの儀式
弥生時代からは自然を自分たちの手でコントロールできるものと感じはじめるように
狩りをして生き物の死と近かった縄文時代と違い、死を怖がりお墓にも変化が訪れはじめた
すべては稲作が盛んになったことによる変化
○他の「神さま」の到来
ー仏教のはじまり
百済(くだら)から蘇我馬子の父にお経と仏さまの像がおくられたのが日本での仏教のはじまり
百済と仲良くするために仏教を広めるのに一生懸命だった
日本に昔からいる神さまを信じる人たちと喧嘩に!
縄文から弥生にかけて神さまへの思いは変わりながらも、土地に根付いた日本独自の神がいた
→Q:誰かと仲良くするためにその子の信じる神さまを自分も信じれるかな?
それまでの「自然界に満ち溢れた神」と、大陸からやってきた「外国の神さま」という認識の違いがあった
当時仏教は都でしか盛んではなく、田舎の人々はそれまでの古くから伝わる神さまを信じていた
でもだんだんブームが広がり、自然に神々がいるという日本の神さまと仏教の神さまがまじって日本独自の仏教ができた
ーキリスト教の到来
ザビエルがキリスト教のカトリックの教えを持ってきたが、最初は仏教の仲間だと勘違いされていた
いきなり新しい神さまが到来し、キリスト教の信者も少しづつ増えていく
→Q:信仰ってそれぞれが信じているもの、それは誰かに共有した方がいいものなの?
それぞれの宗教が教える「こうあるべき」という意見が対立して異なる宗教を攻撃してしまうことがある
その後キリスト教が禁じられてからは宗教といえば仏教と神道だった
【終末】
○海と神さまのつながりの導入
これまでの日本の神さまにまつわる歴史がわかったところで「海と神さま」の関係について知ろう
・“神が宿る島”といわれる沖ノ島について知っているかな?
沖ノ島に住む人々と神さまとの関係について祭祀が行われた場所で、神が宿る島として人々から崇拝されてきた、そしてその伝統は今も受け継がれている
○次回、沖ノ島についての絵本を読んでじっくり学んでみよう
2.それぞれに存在する海への想い
ねらい: 沖ノ島周辺に住む人々にとっての海って何だろう。海に特別な想いを持つ人々がいることを知ることで、自分の海に対するイメージはどのように変化するかな。
【導入】
○前回の復習
・日本の歴史における「神さま」について前回どんな話をしていたか思い出してみよう
ー縄文時代、弥生時代の神さまの違いはどんなものだったかな?
ーどうしてその違いは生まれたのかな?
ー仏教やキリスト教が日本に入ってきたときの印象はどうだったかな?
【展開】
○絵本『いのる』を読む
・読んだ中で知らなかった単語があればメモし、それらについて調べてみよう
おいわずさま ー海の神様
えびすさま ー古くから漁業の神様とされている
かしわでをうつ ー神様を拝むとき両手のひらを合わせてパンパンすること
おみきをのむ ー御神酒、神さまに捧げたあとのお酒
おこうじんさま ー台所の神さま
おしおい ー安産の神さま
おひゃくど ー100回お参りすること
・人々はどんないのりを捧げてきたかな?
Q:沖ノ島ってこの絵本から想像するにどんな島だと思う?
沖ノ島は4世紀後半から9世紀後半までの500年間、航海の安全を祈る国家的祭祀が行われた場所で、神が宿る場所として人々から崇拝されてきた。
・沖ノ島について自分で調べてみよう
沖ノ島は島全体が御神体とされ、女人禁制など当時の伝統が受け継がれている
世界遺産に登録されたが沖ノ島に行くことはできず、宗像大社沖津宮遙拝所から眺めることしかできない
沖ノ島に足を踏み入れる住職者は海で体を清めるという行為を必ず行う
沖ノ島のものは石ころひとつですら島外に持ち出してはならないという決まりがある
○海と神さま、そして「いのり」
これまで神さまについて学んできたけど、海や海に浮かぶ島、海で体を清めるなどして海に信仰を寄せ、いのりを捧げる人たちがいるということを知っていたかな?
人によって「海」というものは全然違うものだけど、昔から海とそこに浮かぶ島を大事に扱い、海に対して特別な想いを持つ人たちが現代にも受け継がれているということを知ろう
○海に対するイメージ
これらを学んだことによって「海」のイメージについて何か感じたことや新たな発見はあったかな?
ー海は地球でたった一つ。自分の近くにある海と、海に特別な想いを持つ人たちの海もつながっている。
【終末】
○海への想い
海に対して特別な想いを持つ人たちは、沖ノ島の人々だけではない。自分と、他の人々が思う海への想いをこれからも大切にしよう。
そしてここから更に、他者の海に対するイメージについて知り、自分の海に対する想いを育もう。