インタビュー
2024.06.13
オポポフレンズvol.9ー海を守るため「対話」を重ねる 奥山杏子さん
海や海にまつわるものが大好きなオポポのともだち"オポポフレンズ"へのインタビュー企画。今回は、ベルギーに住みながら気候変動の問題を解決しようと熱心に活動する奥山杏子さんにインタビュー。これまで数カ国で生活をしてきた奥山さんが感じた、海を守るための「対話」の重要性について話を聞きました。
奥山杏子(おくやま きょうこ)
ベルギー在住。気候、電力、環境に関する国際的な法律の専門家集団が集まって、気候変動に取り組む団体「ClientEarth(クライアントアース)」に所属している。これまでに日本、フィリピン、ベルギー、アメリカなどさまざまな場所で生活してきた。小さい頃から海をはじめとした自然が好きで、環境問題に関心を持つ。日本の大学で法学部を卒業し、フランスのパリ政治学院の大学院に進学。海に関わるルールや政策がどのようにできているかを勉強するため、日本の漁業をテーマに研究した。
祖父母が話してくれたワクワクする「海」を体験する
気候変動の問題に取り組む活動や、自然環境を守るルール作りに携わる仕事をしている奥山さん(気候変動についてはオポポタグ#温暖化で説明しています)。自然全般が大好きですが、とくに海には特別な想いを抱いていたといいます。
「振り返ると、私と海のつながりに大きく影響を与えたのは、おじいちゃんとおばあちゃんでした。」
奥山さんの祖父母は、退職後に2人でスキューバダイビングの資格をとっていろいろな海へと潜っていたという行動派。潮の流れに身を任せて2人で手をつないで海を泳いだこと、魚の近くを通ると餌を食べる「カチカチ」という音がしたことなど、ワクワクするような海での体験をいつも持ち帰ってきて、奥山さんに聞かせてくれるのでした。
海や自然への負担を考えるように
奥山さんは11歳の時、親の仕事の都合でフィリピンのマニラへ引っ越すことに。すぐそばにあった海で、シュノーケリングやダイビングをして過ごしていました。
「祖父母が言っていたように、魚が餌を食べる時に『カチカチ』と音が聞こえてきた時は、『本当だったんだ!』と、感動しました。海と思いっきり触れる経験ができたのは、とっても印象的でしたね。」
その頃、学校では気温や気象が長期的に変化する「気候変動」について学ぶように。気候変動によって海や自然が変化してしまっているという事実を知るようになりました。ある時、学校で「カーボンフットプリントカリキュレーター」というシステムを活用した宿題が出されました。
「カーボンフットプリントカリキュレーターは、1日の生活の中でどれくらいの時間車に乗ったか、どれくらいの時間シャワーを浴びたかなどを計算し、自分の生活が地球にどれくらいの負荷を与えているかを計算するもの。その結果を見た時、幼い頃の私は、自分の行動一つひとつに責任を感じるようになりました。同時に、どうすれば地球への負荷を少なく生活できるか、考えるようにもなりました。」
気候変動によって海に多くの変化がもたらされていることを知った奥山さん。大好きな海への責任意識が芽生えていきました。この出来事は、奥山さんが海や環境、法律について勉強していこうと決意する後押しになったと話してくれました。
人と人の「対話」を重ねることの重要性に気づいた
- 大学3年生を過ごした留学先のジョージタウン大学にて。母に託された母校の法被を着て撮った記念写真です。
- スコットランドのオーバン周辺の沿岸部に行った時の写真。見たこともない海藻がたくさんあり驚いて記録した1枚です。
奥山さんは、気候変動について調べていくうちに、法律や政策が鍵になっているのでは?と思い至ります。
そこで、日本の大学で環境に関する法律を学ぶことにしました。(海の政策やルールについてはオポポタグ#ルール作りでも説明しています)
「日本の気候変動への取り組みとして、国、企業、自治体の責任は法律に定められています。しかし、日本は気候変動の対策に遅れをとっているということがわかってきました。大学での学びをきっかけに、どうしたらみんなで協力して早く、効率よく気候変動への取り組みを進めていけるのか?人々の行動を促す方法についても考えるようになりました。」
忘れられない出会い
在学中には「海そのものに関することも学びたい!」という思いでアメリカの首都ワシントンD.C.のジョージタウン大学へ、1年間の交換留学に行きました。ジョージタウン大学では、忘れられない出会いがありました。それは、気候変動と漁業の影響関係についてアラスカでフィールドワークを行うマティス先生との出会いでした。
「マティス先生は、大きな社会の枠組みを変えるためには、漁師や科学者など、みんなが『対話』を重ねることが大切だと教えてくれました。ルールを決めるとき、誰かが一方的に決めることは望ましくないですよね。さまざまな立場の人同士で話し合うことが重要になるということを、しきりに伝えてくれました。対話を繰り返すことで、よりよいルールが生み出されて、結果的にそれが海や自然を守ることにもつながっていくと思います。」
さまざまな体験や出会いが少しずつ奥山さんの「海洋政策」への関心を高めていき、フランスにある大学院に進んで「海洋政策」の分野を学ぶことに決めました。
クロマグロ漁業の方々にインタビューを実施
大学院での研究テーマは、「日本の漁業に関する政策」について。とくに興味があったクロマグロ漁業について、沿岸で漁業を行う漁師さんたちにインタビューを実施しました。マティス先生に教えてもらった「対話」を重ねたいと感じたのです。
「当時はコロナ禍だったので、パリからオンラインでインタビューを実施するにあたって、うまくインタビューができるかなぁと不安でした。でも、私が漁業に関心を持っていること自体に興味を持ってくださる方が多くて。何世代も漁業を続けて、誇りを持って船を守っている人たちと出会うことができました。」
奥山さんが心がけている「対話」は、海洋政策においても十分になされていないのでは、と気づきます。そのきっかけも漁師さんとの対話にありました。
「その頃日本では、マグロ漁を規制するための漁業法が改正されていた時期で。漁師さんと話しをしていると、必ずしも国の政策に賛同している人ばかりではないことを知りました。漁師さんからしてみると、政策が一方的なものに感じられていたと思うんです。そこでも、もっと『対話』が必要だったのかもしれません。海を守るためには、あらゆる分野の人が対話することが重要だとあらためて気づきました。」
海とのつながりを意識するためにできること
奥山さんは、普段の生活の中でも「海」についての対話を重ねています。すると、これまで見えていなかった「日本の海」について意識することも多くありました。
「今生活しているベルギーでは、ベルギー人とフランス人の仲間とシェアハウスをして暮らしています。ある時、家でおにぎりにのりを巻いて食べていたら、ハウスメイトに『その黒いものは何??』と、不思議がられました(笑)。日本には海産物からとれた出汁(だし)が毎日のように家庭で使われていたりもするし、実は当たり前のように食卓と海が関係していることに気づいた出来事でした。」
身近な方法で海を感じよう
私たちが海と向き合うためには、何が大事なのでしょう。奥山さんに聞いてみると、海を近くに感じることが大切だと語ってくれました。
「もちろんさまざまな環境に住んでいる人たちがいるので、何度も海を訪れることは難しいかもしれません。でも、日本は食べ物から海の豊かさを感じられますよね。他にも、たとえば海の近くで友だちと遊んで、その地域の魚屋さんやサーファーの方と話をする。そして地域のお店で魚を食べて帰る……。そのように過ごすだけでも、私たちは海とのつながりを感じられると思います。そして、そこで生まれる対話を重ねることが大切だと思います。」
海や自然とは、必ずしもいつもシリアスに向き合う必要はありません。身近なところから向き合うことも必要です。そして奥山さんは、多くの人が「海」だけでなく、海を守るための「海洋政策」にも興味を持ってくれることを願っています。
参考資料
A-PLAT(気候変動適応情報プラットフォーム)
https://adaptation-platform.nies.go.jp/climate_change_adapt/qa/02.html