モデル授業案
2024.02.08
『きんのさかな』で考える、海の持続的な活用
漁獲量を守らずにいきすぎた漁業は「乱獲(らんかく)」と呼ばれ、大きな問題となっています。物語『きんのさかな』では、物語に登場するおばあさんが欲張りにさかなにお願いする姿、人間の欲望に応えようとするたびに荒れていく海の色や波の様子が描写されています。この物語を通して、過剰な漁業や乱獲の問題について考えを深めます。
<本プログラムについて>
中学1~3年生 / 総合的な学習の時間、道徳 / 計2コマ
【持続可能な資源】
日本では魚や貝などさまざまな水産資源が人々の生活と経済を支えています。このような水産資源は卵や子を産み繁殖するので、利用する量を考えながら活用すれば持続可能な資源として活用することができます。しかし昨今、科学的に算出されたデータに基づいて定められた漁獲量を守らず、過剰漁業を行う実態があることから、持続的な海の活用が難しくなっている現状にあります。このような過剰漁業は乱獲行為とも言われており、国際的な課題の一つです。私たちがこれからも海の恩恵を受けながら過ごしていくためには、海を持続的に活用することを学び実践しなければなりません。そこで今回のプログラムではこれらの問題に対し児童・生徒が関心を高めることを目的とし、ロシア民話『きんのさかな』を取り扱います。『きんのさかな』は、物語に登場するおばあさんが欲張りにさかなにお願いする姿、人間の強欲に応えようとするたび荒れていく海の色や波の様子が描写されています。過剰漁業、乱獲の問題は、この物語に登場する人間や生き物とどのような共通点があるのか、生徒・児童が自ら考えます。そしてどうすればそのような問題に向き合い、持続可能な海を実現できるかについて考える問いへとつなげていきます。
概要
■学年:中学校1年, 2年, 3年
■関連:道徳・総合的な学習の時間
■目標
<知識及び技能>
過剰漁業・乱獲が世界的な問題となっている現状を知る
<思考力,判断力,表現力>
過剰漁業、乱獲の問題がこの物語に登場する人間や生き物とどのような共通点があるのか考える
<学びに向かう力,人間性>
海をどうしたら持続的に活用することができるか継続的に考え実践しようとする
■教材について
『きんのさかな』
再話:八百板洋子 絵:スズキコージ 出版社:福音館
販売ページ:https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=7153
あらすじ:あるときおじいさんは金の魚を助けました。金の魚は「お礼に欲しいものをあげる」と言いましたが、無欲なおじいさんは「何のお礼もいらない」と答えました。しかし強欲なおばあさんは次々とおじいさんを遣わし、きんのさかなにお礼をもらいに行かせます。おばあさんの要求はどんどんエスカレートし、その度に海は色を変え荒れていくのです。
■授業考案者の考え
「きんのさかな」は、おばあさん・おじいさん・魚・海の4つに着目することでこの物語を教材として最大限に活用する事ができます。おばあさんは自分の欲を満たすためだけに無理な要望をさかなに突きつけます。その度に海は色を変え波は荒立ち変化していきます。そのおばあさんと海のようすからは“有限な資源を持つ海が、人間から無理難題な要望を突きつけられている”ことを想像する事ができます。最後に何も言わず海の底へと泳いでいく魚からは、人間の活動によって大きな影響を受けている海や生き物たちが、人間に呆れているようすを連想させます。そしておばあさんのことを欲張りだと思っているにも関わらず、言われるがまま行動してしまうおじいさんからは、海や自然に対して自分の考えを持ちしっかり自らの責任を果たすことの大切さを学ぶ事ができます。
さらに、海を「活用する」「守る」などといった表現には、私たち人間がこの世界の主体であり、海を客人として扱うイメージがあります。人間が海の問題を引き起こしてしまったため、その解決策について考えることはもちろん大切です。しかしそれだけでなく、人間と自然の関係性についてひとりひとりが考え続けることも大切です。その上で、海(自然)と適度に付き合うことについての自分なりの答えを見つけられないとしても、答えのない問いを意識して生活することで、海と人との共生を実現することができます。
指導内容
1.海を持続的に活用するために
ねらい:物語に登場する人物や自然と、過剰漁業、乱獲の問題にはどのような共通点があるかについて考える。海を持続的に活用するために自分に何ができるかを考える。
【導入】
○問いの投げかけ
・私たちにはどのような欲がある?
ー食べたい、寝たい、〇〇が欲しいなど
・何でも欲張りに頼んでいいよと言われたら何をお願いする?
欲張りになりすぎて失敗したことや迷惑をかけてしまったことはある?
ーペアやグループで話し合う(物語を読む前に人間の欲について考える時間を持つ)
○ある物語に登場する人間や自然と、今世界で実際に起きている問題にどのような共通点があるか考えてみよう
【展開】
○『きんのさかな』を読む
○考えてみよう
・最後に魚が言うとしたらどんなセリフ?それはどういう理由から?
ー「おばあさんはあまりにも欲張りすぎるよ、もう散々お願いを聞いてあげたのに」
・おじいさんはおばあさんのことを「欲張りだ」と思っているみたいだけど、何度も魚にお願いをしにいきます。なぜだろう?
ーおじいさんは押しに弱い。この結末になったのは無責任なおじいさんのせいでもある
(おばあさんは欲張りであること、おじいさんは無責任であること、魚は呆れているのではないか、などそれぞれにフォーカスする)
○おばあさんのお願いに答えるたびに海や魚はどのように変化している?
ー海は色を変えている、波が荒々しくなってる
ー海がおばあさんのお願いを叶えるために無理をしすぎたから?
ー海や魚が怒っているから?
実は昨今、人間の行動が海に大きな影響を与え変化をもたらしている
○過剰漁業、乱獲の問題へ
・水産資源と聞くと何を思いつく?
ー魚介類、塩、漁業、市場など
→海洋資源を持続的に活用し、生態系を守ることは大切(SDGsの取り組み)
・水産資源は無限にあるものではない、守るためには?
ー海を綺麗に保つ、働き手のケア、獲りすぎない
→漁獲量を適切に管理して、資源状況の悪化を防ぐ
しかし…
キーワード:過剰漁獲、乱獲 とはどんな問題か自分で調べてみよう
ーそれぞれでどのような問題か調べる
○海を持続的に活用するには?
ー世界の取り組み、日本の取り組み
ー今後行っていこうと提唱されている取り組み
*展開での発問の意図
・最後に魚が言うとしたらどんなセリフ?それはどういう理由から?
→おばあさんが欲深いことに気付くことで、水産資源の乱獲問題が人間の欲と関係しているか考える展開へと繋げる
・おじいさんはおばあさんのことを「欲張りだ」と思っているみたいだけど、何度も魚にお願いをしにいきます。この行動についてはどう思う?
→本当は欲張りだと思っていてもある意味では「傍観者」であるおじいさんに気づくことで、「海を持続的に活用する」ことにおいても自分が傍観者にならないことについて考える必要がある展開へと繋げる
・おばあさんのお願いに答えるたびに海や魚はどのように変化している?
→魚が呆れているようすも想像できるが、海のようすにフォーカスすることで過剰漁業・乱獲の問題へと繋げる
【終末】
○『きんのさかな』を教訓に私たちが考えていくべきこととは?
ー強欲にならず必要なものを必要な量で。消費と生産の無駄遣いをしない
○私たちひとりひとりが海を持続的に活用するため実践できることは何だろう?
ーおじいさんのように流されず自分の責任を果たす
【予想される生徒の反応】
・なぜこんなに欲張りなおばあさんになってしまったのだろう
・きんのさかなはどうして何も言わずにお願いを聞き続けたのだろう
・どうしてルールがあるのに過剰漁獲をしてしまう実態があるのだろう
・海を持続的に活用するために自分に実践できることはない、あるとしても小さな力にすぎない
2.[発展]海(自然)と“適度”に付き合うこと
ねらい:海(自然)と人間の関係性について考え、“適度”に付き合う状態はどのようなものなのか、葛藤を生じ、関心を育む。
【導入】
○前回の復習:『きんのさかな』から“欲”に注目した問いかけ
・おばあさんの行動はどこからが欲張りに感じる?どこまでのお願いが適度なお願い?
ー魚のことを助けてあげたし最初の“たらい”までまでなら許せる
ーおばあさんは助けていないので何もお願いしない方が謙虚でいい姿勢なのではないか
(人間の欲について考える復習)
【展開】
○過剰漁業、乱獲の問題×欲に注目した問いかけ
・魚を食べたい、魚を獲ることを仕事にして経済を発展させたい、と思うことは人間の欲?
ー魚をわざわざ食べなくてもいいけど食べるのは人間の欲の結果
ー昔からの流れだから欲とは関係ない
ー人間は生きていくために当然魚を獲ってもいい
○漁獲可能制度(TAC)について
・TACとは…水産資源の持続的利用あるいは回復を図るために魚種ごとに漁獲できる総量を設定して管理する制度のこと
・TAC制度が“適度”だと定める量は本当に海にとって“適度”なのか?
ー広大な海の生物の数をどのように測り、誰が何の権利で漁獲していい量を決めるのだろう
○考え議論しよう
・人間が欲張らなければ海(自然)を守れる?少しくらいなら活用してもいい?
ー自然にはサイクルがあるから欲張らないで必要な分だけ活用すれば守れる
ー欲張らないで少しだけ活用したとしても、活用していることには変わりないから守ることはできない
・人間と海(自然)どちらが上の立場?どちらがどちらを支配している?
ー人間が自然を支配しているような感じだけど、実際には人間は自然に支配されている
ー人間は自然がないと生きれない、自然は人間がいなくても生きれる
【終末】
○議論したことを踏まえて、あなたにとって「海(自然)と“適度”に付き合うこと」とは何か書いてみよう
ー大前提として自然を大事にする
ー人間は自然に頼って生きていくしかないので、感謝しつつ謙虚に活用させてもらう気持ちを忘れない
予想される生徒の反応:
・ある意味当たり前なことでこれまでに意識したことのない問いなので難しい
・自然を相手にすると人間がとても小さく感じる
・人間は自然がないと生きられないからこそ自然を大切に守るべき
⇒【更なる発展】人間はこれまでの歴史の中で海とどう関わってきたのか、今の関わりはどうなのか、TACの算出方法を調べるなど探究プログラムに繋げる