インタビュー
2024.10.11
オポポフレンズvol.13【後編】元起大智さんー魚突きを楽しみながら富山湾を守る
海や海にまつわるものが大好きなオポポのともだち"オポポフレンズ"へのインタビュー企画。前回に続いて話を聞くのは、雪山や海の中を撮影するビデオグラファーの元起大智さん。後編では、地元富山で魚突きを愛する人たちと共に立ち上げた「グリーンスピアフィッシャーズ」での活動について聞きました。
元起大智(もとき だいち)
富山県出身。極地カメラマンとして雪山や水中などを舞台に、ダイナミックな絶景を撮影するビデオグラファー。2020年から、素もぐりで100キロのイソマグロに挑む「MISSION 100(ミッション・ワンハンドレッド)」に参加。現在は富山県朝日町の地域おこし協力隊としても活躍。朝日町泊漁協準組合員になりながら、一般社団法人「グリーンスピアフィッシャーズ」を立ち上げ、富山の海の環境や資源を守る活動を行っている。
魚突きは地球にやさしい漁法
ー前編はこちらからー
一流のスピアフィッシャーたちと各地の海にもぐり、100kgのイソマグロに挑むプロジェクトに参加する元起大智さんは、自身も魚突きに魅了されたひとり。2023年、そんな魚突きを愛する人たちと一緒に「グリーンスピアフィッシャーズ」(通称:グリスピ)という団体を立ち上げました。
活動の目的は、レジャーである魚突きの環境を整えていくことです。そのためにも、フィールドである海を守り、持続可能な海を取り戻す活動も行います。
「魚突きってみなさんあまり知らないですよね。海のレジャーのなかでは近づきがたいと思われることも実は多くあります。でも魚突きはとてもエコな漁法なんです。たとえば、魚突きで使う道具は少なく、持つのは銛ひとつ。なのでごみが出ないのが特徴です。見えている魚しか捕らないというのも魚突きならでは。つまり、食べる量しか取らないので、むだに殺さず、乱獲が起こりづらいのです。素もぐりのスキルをいかして、海の中の問題に取り組むこともできます。自然に優しい漁法なんです」
海への関心が高まるのも魚突きならではの魅力だといいます。
「海にもぐるレジャーは、スキューバダイビングやシュノーケルなどいくつかありますが、どうしてももぐる場所や時間、機会が限定されてしまいます。その点、魚突きはどんなところにももぐれて、一年中できる。魚突きをする人たちは海の中の様子をよく知っているので、海への知識や関心が自然に高まるんです。実際、ビーチクリーンなどのイベントを行うと、全国からスピアフィッシャーたちが集まってきてくれます」
海の中で起きていることを正確に知り残していく
- 磯焼けの原因となるウニをまびく作業を行っているところ。一つ一つとっていく地道な作業となる。
- 地元の漁師さんたちにも協力してもらうう。海中の様子は毎日観察し、データとして残していくことが大切になってくる。
自分たちのスキルや海への関心の高さを活かすことで、海へ還元する活動ができるのではないかと仲間たちと立ち上げた「グリスピ」。現在は、富山県朝日町の泊漁港の漁師さんたちと協力しながら、「磯焼け」の課題に取り組んでいます。磯焼けとは、海藻や海草を魚やウニが食べてしまい、焼け野原のような状態になった海底のことを指します。
「大切なことは、海の中で起きていることを知ってもらうこと、そして次の世代に伝えていくこと」と話す元起さん。
「今は磯焼けの原因となるウニの生息個体数を調査しています。またウニの蓄養(ちくよう)のノウハウがある企業に声をかけながら、今後はウニが町の特産品になるように動いているところです。漁師の新しい収入源になったり、磯焼けの改善につながったり、いろんな循環が生まれたらいいなと思っています。」
その他にも、個人的に漁協の組合員となり持続的な漁業への改善にも取り組んでいる、と教えてくれました。
「能登半島地震後、漁協と協力して流れてきたごみを集めたり、水中ドローンを使って漁場の調査を行っています。ただ過去のデータが少なく、どれだけ状況が悪くなっているのかなどの比較はできません。大学や研究施設などと協力してやっていますが、数年の調査では変化や影響はわからず、長く時間のかかる地道な作業です。継続的に調査してデータとして残すことが重要であると実感する中で、予算を確保したり調査自体を続けるむずかしさも実感しているところです」と元起さん。
地道な活動の重要性を多くの人に知ってもらうことも大切な活動内容になってきます。
子どもたちにもっと海を知ってほしい
富山湾の保全活動を毎日行うなかで、子どもたちと海との関わりの少ないことも気がかりだそう。
「毎日、海へ出かけていますが子どもたちの姿をほとんど見ることがありません。年間を通すと夏くらいしか見かけません。昔から街に住んでいるお年寄りの方たちと話をする機会も多いのですが、海への関心がとても高くて話が通じやすい。その理由は、子どもの頃からいつも海が身近にあったからだと思うんです。たとえば、海の豊かさや楽しさといっしょに、どんなことが危険なのかなど、海と生きることを子どもの頃から身をもって学んできている。でも、今は何かがあるとすぐに閉鎖されてしまったり、危険から遠ざけることがほとんどです。子どもたちが海とふれ合う機会がどんどん減ってきてしまっている。海にほとんど触れたことがないのに、海の課題を話したとしても、一体何の話なのか理解もしづらいと思うんです。海の正しい遊び方や危険なことを次の世代に伝えていく必要性を強く感じます。」
水産資源の減少や海ごみの問題も、数年で解決できるものではなく、時間のかかる地道な作業。だからこそ、次の世代が海にふれ合い関心を持つ機会をつくり出すことが重要だという元起さん。
海で何が起きているかを理解しつつ、海と暮らす人たちの今の生活にも目を向ける。そして、海の問題を解決するためには、次の世代が関心を持つことなど、いろいろな視点から考える必要があると実感しました。